◇砂糖の値段。その変遷について◇
砂糖は私達の生活の中で最も馴染みのある食品のひとつであると思われます。
現在数多く出回っている甘味料の中でも、その歴史や安全性、味の良さ等から他のものとは一線を画する存在であると考えられます。
家庭でコーヒー・紅茶を飲む際や、料理の調味料として使用される他、お菓子や加工食品の様々な製品に於いて幅広く使用されています。
昭和40年代以降、しょうゆやマヨネーズ等と共にスーパーマーケットの特売商品として使用されることが増え、現在はチラシ価格でキロ100円という販売価格も珍しくないのは御存知かと思います。
今ではすっかり物価の優等生となり、無ければ困るので購入はするものの、特に商品としてそれほど興味を持つ対象ではないという見方も出来なくはありません。
家庭の主婦の皆様は、小売店の特売実施に合せてストックを調整している向きもあるように思います。
しかし、かつて砂糖は貴重品と考えられ、現在とは少し違った存在として見られていた時代があったことは、最近ではあまり知られていないようです。
ここでは明治後期から現在に至る、砂糖の価格の変遷を主に消費者価格の面から、その価値がそれぞれ時代により、私達の中でどのように変化してきたかを考えてみたいと思っています。まず今回は、明治後期から昭和20年までです。
◎明治後期〜昭和前期(終戦まで)
①〜明治後期〜
明治35年(1902年)の砂糖の値段は㌔17銭。同じ年にビール19銭(大瓶)、日本酒32銭、白米1円19銭(10kg)であったといわれています。
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砂糖(㌔) |
ビール(瓶) |
清酒(1.8ℓ) |
白米(10kg) |
初任給(大卒) |
明治35年(1902年) |
17銭 |
19銭 |
32銭 |
1円19銭 |
30円 |
明治30年〜40年初め頃の、金融を含む大手企業の大卒社員の初任給は30円程度といわれていますので、些か乱暴とは思われますが、平成16年の大卒初任給(大企業)の平均額である199,900円から、上記商品を現在の値段に置き換えるために、初任給額を比較して得られる単純な比率で換算してみると、砂糖は㌔1,133円、ビール1,266円、清酒2,132円、白米7,929円という具合になります。
明治期の大卒者は、今とは比べ物にならない少数の高給エリート層であったと考えられることから、上記の値段に2〜3倍程度を掛けたものが、おそらく大多数の庶民が実際に購入する際の感覚であったと思われます。
日清戦争(1894〜95年)の結果、台湾を領有することになった日本は、国策的に砂糖事業に乗り出しました。
それまで奄美、沖縄地域で行われていた甘しゃ糖(さとうきび原料の砂糖)や北海道を中心とする甜菜糖の生産量は、割安な外国産糖に押される形でむしろ減少の傾向もありましたが、一転、糖業に適していて耕作面積のはるかに大きい台湾を獲得したことにより、大幅に生産を増やすことが可能になりました。
とりわけ日露戦争(1904〜05年)以降、産業が大規模化していく流れの中で、台湾に於ける砂糖事業にも大きな資本が投下され、数多くの製糖メーカー、糖商等が成長することとなりました。
明治35年(1902年)頃、国内の一人当りの年間消費量は5kg未満といわれ、また消費の内訳も菓子等の製造に向けられる業務用が大半であったと考えられることから、一般庶民にとって砂糖の購入は価格の問題もあり、やはり今ほど日常的なものではなかったと思われます。しかし、国内糖業の伸長とともに徐々に消費量が増えていくこととなります。
また砂糖は軍備増強を目指す政府にとって酒などと同様に、徴税品目としての役割を担い明治34年(1901年)より導入された『砂糖消費税』等は、じつに平成元年(1989年)の一般消費税導入まで存続しました。
その②に続く